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SEALDsら、8.30大規模デモを予定 活発化するデモ行動の不毛な点と、不毛でない点

SEALDs = 自由と民主主義のための学生緊急行動 ( Students Emergency Action for Liberal Democracy -s ) をはじめとする、安全保障関連法案に反対する団体らは、2015年8月30日、国会を取り囲む大規模デモを予定している。

 

主催団体の「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」によると、参加者数は国会正門前に10万人、全国でも同じ時間帯にデモ行動する参加者100万人を集める、としている。

 

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これらのデモ行動は、6月4日、衆院憲法審議会での長谷部恭男 = 早稲田大学法学学術院教授ら憲法学者3人の「集団的自衛権行使は違憲」という発言がメディアで報道されたのに勢いを得て、活発化したようだ。

7月16日に安全保障関連法案の強行採決前には、「自民党感じ悪いよね」、「アベ政治許さない」などの標語の下に、大規模なデモが行われた。

その後、安全保障関連法案の審議が参院に移ると、衆院採決前ほどの熱気は失われたが、今回の「総がかり行動」が実現すれば、安保法案関連のデモでは過去最大の規模になると予想される。

 

安保法案以外の場面でも、最近、デモ行動は活発化している。

8月11日川内原発の再稼働に際しては、川内原発のゲート前に、再稼働阻止を求める人々が集まり、声を上げた。

 

これらのデモ行動は、しかし、目立った成果を上げられない可能性が高いと予想される。

 

これまで、「デモ」が「成功」した例としては、アメリカの公民権運動や、最近では、台湾のひまわり学生運動などが挙げられる。

これらの成功例と、今回の日本のデモ行動の違いを考えてみよう。

 

まず、台湾においてひまわり学生運動が成功したのは、「立法院を学生が占拠する」という実力行使が行われたことが大きい。

一歩誤れば、これはクーデタにも発展した可能性があり、台湾の場合、「デモ」という表現はやや不適切で、どちらかといえば「暴動」に近かった。

2011年からアラブ世界で巻き起こった民主化運動、「アラブの春」も、「デモ」が功を奏したというよりは、「革命」が行われた、と考えるのが妥当だ。

 

今回の日本の場合、国会を占拠するような「暴動」に発展することは考えにくい。

デモ行動の渦の中心にいるSEALDsは、「非暴力」を訴えることで自らのクリーンさを主張しているし、実際彼らの手法を観察すれば、「暴動」や「革命」を目的としたものではないことは分かる。

 

日本で「暴動」に類した行動が行われ、実際に政府を動かしたのは、1918年の米騒動のときが最後だと思われる。

これは、米価格が高騰するという社会不安が広まって起きたものだ。

実際に生活に影響を受ける可能性があるという危機感が民衆に広がり、「暴動」に発展したのだった。

実際に不利益をこうむることになれば、デモは暴動に発展する。

これが暴動やデモの本質的な形であって、逆に、直接的な不利益を受けていない限り、「暴動」に発展する可能性は低い。

戦後70年を閲し、「戦争」を身近に感じることもほとんどなくなっている現代に置いて、今回の安全保障関連法案が直接的な不利益を生み出すという、社会不安が巻き起こる可能性は至って低いものと思われる。

 

アメリカの公民権運動が成功したのも、むろんケネディ大統領の英断という面もあるが、直接的に「差別」という不利益を享受していた黒人が声を上げていたという面は大きかっただろう。

アメリカの合衆国連最高裁判所が同性愛結婚を認める判決を下したのは記憶に新しいが、これも、実際に社会制度の中で差別や不利益を受けてきた同性愛者が声を上げたことが、司法を動かしたものと考えられる。

暴動まで発展しなくとも、民主主義のシステムが十分整備されている国では、このような種類のデモが政治や司法を動かすことは、あるわけである。

 

さて、同時に、アメリカのこの2つのデモの成功例が、いずれも国内問題である、ということは注目に値するだろう。

逆に、国際問題であるイラク戦争反対のデモは、結果として共和党から民主党への政権交代を生み出したものの、イラク政策に関して直接的な結果が引き出されたわけではなく、「失敗」と言ってよい。

また、ベトナム戦争時の反戦デモも、一見すると成功したかのように見えなくもないが、あれは現地で戦いが泥沼化してしまったことが撤退の原因であり、反戦デモが政治を動かしたのではなく、やはり「失敗」だった。

 

こと国際問題に限っては、国内に不当な扱いを直接に受ける人がいないこともあって、デモは本格化しにくいし、また、政府も彼らの主張を評価しかねる、ということだろう。

 

今回の日本の場合も、安保関連法案は、どちらかというと国内問題というよりは、国際問題であって、より高度な情報に接している政府の方が、より有利な立場にある。

従って、政府与党の動きが変わる可能性は低く、少なくとも、安保関連法案の「廃案」は難しいと言える。

 

ただし、高度な情報を秘匿していた政府が、国会で一部、情報を公にして、ある程度具体的な例に踏み込んで議論できるようになった背景には、デモ行動の影響が考えられる。

この点では、デモ行動は評価できる。

(ただし、既に政府答弁にあるように、防衛上の理由から秘匿されるべき情報があるのは確かであり、公開国会の場で、具体的な例に踏み込んで議論することが一概に良いとも言えない。)

 

暴動が起きる可能性は低い。

現段階で、明白に直接的な被害を受けている人が、国内に居ない。

国内問題ではなく、国際問題であって、高度な情報が秘匿されている。

 

このような状況の中で、今回のデモ行動を実のある形にするためには、選挙につなげることが必要不可欠だ。

 

立憲主義や平和主義という 「理念」に基づいた政治を政府に望むならば、その「理念」を掲げる政党に政権を担当させるしかない。

そのような動きがデモ団体内部から今のところ出ていないのが残念だが、デモ行動に刺激を受けて、新しい政治団体や政党が生まれる可能性はある。

もし、今後、SEALDsらの主張する「立憲主義」を掲げる政党(現時点では、共産党民主党が似たようなことを主張してはいるが、SEALDsは支持していない)が現れたり、その党の党員が選挙で当選するのだとしたら、その点において、今回のデモ行動は評価できることになるだろう。